磯崎 哲也 氏 インタビュー

磯崎 哲也
Femto Growth Capital LLPゼネラルパートナー
磯崎哲也事務所 代表

長銀総合研究所のインターネット産業のアナリスト等の後、ベンチャーの世界に飛び込み、カブドットコム証券やミクシィの社外役員、中央大学法科大学院兼任講師などを歴任。現在、磯崎哲也事務所代表/Femto Startup LLPゼネラルパートナー。ブログ及びメルマガ「isologue」、著書「起業のファイナンス」。

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新生企業投資との関わり

日本でも、ここ2年ほど急速にベンチャーをやってみたいという人が増えていますし、起業をサポートしようという気運も盛り上がっています。設立したばかりのシードステージの企業に対して数百万円から3000万円程度までの金額を投資してくれるベンチャーキャピタルや、シード・アクセラレーター、エンジェルといった企業や個人も、以前に比べると格段に増えてきました。しかし、現在の日本のベンチャー界の問題は、その次のアーリーステージの段階で億円単位の投資をしてくれるところが、まだ非常に少ないことです。将来、大企業に育つようなベンチャーが力強く伸びていくためには、このステージで少なくとも億円単位の資金が調達できる必要があるし、アーリーステージに投資をするファンドはビジネスとしても大きなポテンシャルを秘めていると思いました。そこで、そうしたファンドの運営を行う「フェムトグロースキャピタルLLP」を一緒に立ち上げようということになり、その立ち上げを一緒にやってきたパートナーが新生企業投資です。

新生企業投資とはどんな集団なのか

一般のみなさんは、「銀行系」というと「頭が堅くて、石橋を叩いても渡らない、意思決定が遅い」といったイメージをお持ちかも知れません。実は私もそうでした(笑)。しかし、新生企業投資のみなさんは長年、ベンチャー投資や海外を含むプライベートエクイティ投資をやってきた、十分に実績を持つ、型にはまらないフレキシブルな人たちです。母体の新生銀行を含めて、トップまで組織内の風通しがよく、意思決定も速いので、現場の判断で、ここぞというところでは出て行き、引くところは引く、少数精鋭の人たちという印象です。私は2004年以降の投資のパフォーマンスのデータを見せてもらってビックリしましたし、一般にも知られていないと思うのですが、日本の他のイケてるベンチャーキャピタルと比べても非常に高いパフォーマンスを上げているチームではないかと思います。アーリーステージのベンチャーというのは「、まだ何も無い」に等しいわけですから、減点方式でアラを探し始めたらキリがありません。上場株投資や企業再生投資などと違って、リスクも定量化しにくい。他のベンチャーの事例を多数知っていて、「この会社はイケそうだ」という「嗅覚」を共有していることがパートナーとしては絶対条件です。新生企業投資のメンバーは、そうしたセンスを共有できると思いましたし、ベンチャー投資だけでなく、より広いプライベートエクイティ投資全般に関して理解の深いプロ集団だと思います。

パートナーとしての新生企業投資

日本のファンド(LPS=投資事業有限責任組合)を運営する主体(GP)としてLLPを使うことは、今までも例が無いわけではないようですが、表立ってこの「LLP - LPS」というストラクチャーを採用するのは、おそらく日本では初めてのことではないかと思います。今までの日本のベンチャーキャピタルは、運営主体が「株式会社」であることが多かったですが、今回のストラクチャーを採用することで、「個人」のベンチャーキャピタリストも無限責任を負わずにファンド運営に関わる事が可能になります。また、米国のLLCと同様、LLP段階では課税されずに利益が配分され、それぞれが税の申告をしますので、ファンドのパフォーマンスがダイレクトにパートナーに反映されます。世界の投資業界でこうした「個人」の集合体が投資業務を行うことが当然となっているのは、やはり、投資を成功させる最も重要なことが、「個人」のセンスとインセンティブだからだと思いますが、同様のことが日本法の下で出来ないと思われているのは非常にもったいないことだと思いました。私のこうした「日本の投資活性化のために、新しいしくみを採用したい」という希望に、新生企業投資は粘り強く付き合ってくれて、このしくみを採用するファンドの実現まで漕ぎ着けることができました。

新生企業投資に期待すること

日本では、ベンチャーというと中小企業のことだと思う人がまだ多いんじゃないかと思います。しかし、アメリカのグーグルやフェイスブックを見てわかるとおり、ベンチャーは決して中小企業とは限りません。日本でも、起業して数万人規模の会社に成長していくようなベンチャーがたくさん生まれて欲しいわけですが、そのためには、単にアーリーステージで数億円の資金を投資すればいいのではなく、成長する課程で、融資での資金供給や、買収資金の提供、海外も含めた企業とのアライアンスといった様々なことが必要になってくるはずです。フェムトグロースキャピタルは、そうした「設立から上場後の大企業に成長するまでのプロセスを総合的に支えていくインフラ」になりたいと思いますし、新生企業投資には、新生銀行と協調して、このインフラをしっかりとサポートしてもらえることを期待しています。

ベンチャーに興味のある方へのメッセージ

私自身はもちろんベンチャー大好きなのですが、ではそれを人に勧めるかというと、あまり「お勧め」はしていません。ベンチャーを経営することには大きなリスクもありますので、「人から勧められて」やることではないと思います。ベンチャーを経営するということは、与えられたアイデア、与えられた部下、与えられた資金などを元に、他人から「何かをやれ」と言われて動くのとは正反対で、まさに「自分が」物事をすべて決めていくということだからです。誰でもできるようなことは、すでに誰かがやっているはずなので、新しい会社で何かをやっていくということは、様々な才能も必要ですし、甘いことではありません。しかし同時に、「今までの世界は何だったんだ!」と思うくらい、輝かしいキラキラした世界が待っている可能性もあります。自分の心の奥底から「ベンチャーをやってみたい」という意欲が地鳴りとともに沸き上がって来るような人は、ぜひベンチャーにチャレンジしてみて欲しいと思います。